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狐に化かされて 三話

ではいざ神社に赴こうとしたがこの全身灰色のスウェットという格好では
外に出歩くのには少々気恥ずかしい。近くのコンビニにいく程度ならこん
な格好する人もいないのでもないのだろうが思春期の高校生としては周
囲の目が気になるもの。しかも今は望まないにしても女の子になってしまっ
たのだからそれなりの格好はしておきたい。
そんな彼の思考はすぐに狐の神様に御理解していただいた。体を一緒に
共有しているだけに話が早い。例によってそのご都合主義とも言われる
力が働いたのか頭から下のすべてが一瞬、魔法のように光に包まれた。
すぐに光は消え去り、衣服は見事に女性ものの服に変っていた。そう、
確かに女性ものに変わっていた…。それは白の衣に赤の袴のツートンカ
ラー。長くなった髪の毛は和紙を筒状にして束ねてあるという風情である。
まるで巫女装束だった。
「いや間違いなく巫女服じゃんか!」
彼は彼の体にいると思われる狐に対し関西人顔負けの渾身のツッコミを
かました。
狐が言うには
「現代の衣服はよく分からない。だが一応現代も巫女装束はあるのだ
ろ?」と、言い始める。「ワタシニホンゴワカリマセン。」と言われているほ
ど頭にくる言い訳だった。とにかく元に戻してほしいと頼んだがこれ以上
通力を使うと体力が持たないと拒まれた。彼は文字通り狐に化かされた
のではないとかと思い始めた。しかしここで怒って足掻いてもこの狐に体
を乗っ取られ、しかも女になったというこの状況で何かを変えられるとは到
底思えない。こんな不可思議な現象を一人で解決するという方が難しい。
ここは仕方なく相手に乗せられようということでこの格好で神社に向かうし
かなかった。確かに神社までいけばこの姿は別段おかしくない。むしろ自
然であり正しいあり方である。ただ家から近くの神社まで行くまでの道中
だ。近くのとは言ったが自転車で10分はかかる距離である。いや10分な
ら問題ないか。むしろ飛ばせばもう少し時間は短縮できるはずだ。彼は意
を決して玄関を出る。わざわざ草履まで用意してあることに関してはいろん
な意味で狐には頭が下がる。彼は玄関前に置いてある自分の自転車に跨
ろうとする。が、うまく跨れない。袴が邪魔をして乗りにくいのだ。それを察
した狐は袴の裾を短くしてくれた。なんとも便利な狐である。膝上まで短く
なったことは気になるが。おかげで今度はちゃんと跨げ、あとは全速力で
自転車を漕ぐだけだ。慣れない草履を履いた足をペダルに乗せて漕ぎは
じめる。しかしペダルが一回転する前に足が地面についてしまった。もう一
度漕ぎはじめる。だがまた半回転するところで足がついてしまう。こんな服
装だから乗りづらいのだろうか。ならば慣れればいけるだろうとまた挑戦し
てみる。だが何度やっても自転車をひと漕ぎすらすることができない。彼は
また不安に包まれた。そしてその原因もなんとく気がつき始めた。
「もしかして体のバランスが変わっている?」
どうやら女の体になったことでバランス感覚が変わってしまったらしい。少
なくとも上下(うえした)で重量が変わっているのは間違いない。そうであれ
ば右左(みぎひだり)でもバランスが変わっている可能性は十分にある。
彼は愕然とした。情けなくも彼は高校生にもなって自転車に乗れない女の
子になってしまったということになる。
そんな彼に宿る狐はこのように話しかける。
「自転車とやらに乗れないのであれば歩けばよかろう。」
そう今彼の選択肢はこの距離を歩くということに限られてしまったのだ。ただ
正直きついものがある。このような田舎でも都会でもない中途半端な住宅街
でこんな格好している人はなかなかいない。しかも人通りも決して少なくもな
い。都会ならコスプレなどと思ってくれるだろうし、田舎なら巫女の一人や二
人いてもおかしくないだろう。だが田んぼもビルもごっちゃになっている半端な
この町ではこの格好はどうも違和感を生んでしまう。
「そこまで巫女を愚弄することもなかろうて。」
彼の思考を読み取った狐は腹を立てたように言い出した。
そう言われればそうかもしれない。巫女服を着ているだけでずっと馬鹿にされ
るのではないかと思っていたが巫女は巫女で立派な職業である。恥かしがる
ことは巫女に対して失礼だと思い直した。なんだか狐の声にだんだんと素直に
聞けるようになってきた。
彼は自転車から降りて引きずり元の場所へ戻すと、一度息を深く吸い込んで吐
いた。「よし」と発し、ゆっくりと歩き始めた。もちろん向かう先は地元の神社で
ある。自転車で10分くらいだから歩いて20分くらいか。彼はひたすらに歩き続
けた。最初はゆっくりだったがだんだんと駆け足しになっていった。それもその
はずである。さすが時間帯だけに自分の学校は休みになったとはいえ、他のサ
ラリーマンや学生たちがちらほら歩いている。そして歩くたびに通行人がこちら
をじろじろ見てくるのは言うまでもない。特に男の目線は今までに感じたことの
ないほど真剣にというかわずかにいやらしさを含んだような視線だった。自分も
こんな目で女性を見ていたのかと思うとなんだか反省したくなる。ただどうも通
行人らがもの珍しそうに見てくるのはそれだけではないように思える。しばらく
してそのことに気がつき、さらにしばらくしてから彼らの目線が少し上の方にあ
ることに気がついた。何かそこにあるのだろうかと彼は頭を触ってみた。すると
なにやらモフモフしたものが二つついている。もちろん髪の毛などではない。し
かもその二つのモフモフはやさしく触るとむずかゆくなるような気持ちよさを感
じ、強くつねると痛みを感じる。
「まさかこれって耳!?」
今更ながらそんなことに気がついた。なぜに。と思ったが今は狐に憑りつかれて
いるとすれば耳のひとつやふたつくらい生えていてもおかしくない。まさかとは
思い念のためお尻も触ってみるとこちらも耳に負けず劣らずのモフモフがついて
いた。これでは獣が人間に化けたか、もしくはそいう設定のコスプレイヤーにしか
見えない。多分大半は後者だろうが。それに気づいたあたりから、今までよりも顔
を真っ赤にしながらきょどきょど周りを見ているのか見ていないのか分からないくら
い目が泳いでいた。「なんとか耳を引っ込めることはできないのか?」と狐に呼びか
けるが「それはわしがわしである証だから無理じゃ。」と言われた。本当は耳も尻
尾もさきほどの力を使えば隠すことができたが昔から人を騙すのが好きだった狐
はあえて知らないフリをしていたのだ。そうとも知らずにできる限り隠すように手で
頭とお尻を抑えて早走りで歩道を駆けていく。だがかえってそのほうが目立ってし
まい彼は通行人の目線を釘付けにしてしまった。もう全速力で駆けて抜けて行き
たかったがなにしろ履き慣れない草履と袴のせいでそれもまかり通らない。やれる
限りのはや歩きでその場なんとか切り抜けようとした。恥ずかし過ぎたか道中の通
行人の顔も町の風景も記憶がないくらいである。そして甲斐あってか、ようやく神社
の石段を駆け上がり鳥居が見えると、ラグビーのトライを決めるかのように滑り込んだ。
しばらくして狐が「そんなに恥ずかがらんでもよかったのではないのか。」と言った。
が、やはり恥ずかしいものは恥ずかしいのである。

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